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物流現場の「空気」を見る

20 時間前
読了時間: 7分

― 物流企業にとって、現場は「商品」そのもの ―

物流会社の現場を訪問する機会があると、私は設備やシステムを見る前に、その現場の「空気」を見ます。もちろん、空気といっても目に見えるものではありません。

現場に一体感があるか。

現場と経営との間に大きな壁を感じないか。

会社が大切にしていることが、管理者だけでなく現場で働く人たちにまで伝わっているか。

そこで働いている人たちが、それぞれ違う仕事をしながらも、一つの組織としてつながっているか。そんなことを見ています。

これはコンサルタントとしての癖なのかもしれません。

そして私は、この「空気」は特に物流企業にとって重要だと考えています。


■ 自社物流と物流企業では、現場の意味が違う


メーカーや卸売業などの自社物流にとって、物流は事業を支える重要な機能です。

商品を正確に保管し、必要な時に必要な場所へ届ける。

そのために必要な機能と業務レベルを維持できる人材を配置する。

組織の規模が大きくなれば、当然、必要となる人数も増え、責任者に求められる能力も高くなります。しかし、自社物流にとって物流は、あくまで会社を構成する機能の一つであり、情報システム部門や経理部といった組織と変わらない組織の機能であり、一部です。

一方、物流企業は違います。

物流企業にとって、物流現場は事業そのものです。

ドライバーが商品を運ぶ。

フォークリフトオペレーターが商品を動かす。

倉庫スタッフが入荷し、保管し、ピッキングし、検品し、出荷する。

そこで生み出される品質、生産性、対応力が、顧客に提供しているサービスです。

言い換えれば、現場そのものが商品です。

であるならば、本来、物流企業ほど経営と現場が近くなければならないはずです。

ところが、多くの物流企業を見ていると、必ずしもそうなっていません。

むしろ、

「経営と現場の距離が遠いな」

と感じる会社は、決して少なくありません。


■ なぜ経営と現場の距離が生まれるのか


なぜ、事業そのものであるはずの現場と経営との間に距離が生まれてしまうのでしょうか。

私は、その理由の一つに物流という仕事の特性があると考えています。

例えば、

トラックの運転が上手い。

フォークリフトの操作が上手い。

作業が速い。

ミスが少ない。

商品の知識が豊富。

顧客からの評判がいい。

物流の仕事には、このように個人の能力や経験によって、組織の中で明確な存在意義を持つことのできる仕事が数多くあります。

「あの人に任せておけば大丈夫」

そう思われる仕事を一つ持っていれば、組織の中で十分な役割を果たすことができます。

本人も自分の仕事をきちんとこなしている。

会社も、その人が期待した仕事をしてくれていれば問題ない。

そこに一つの関係が成立します。

しかし、この関係には落とし穴があります。

会社も本人も、それ以上のことを相手に望まなくても成立してしまうのです。


■「自分の仕事」と「会社の仕事」が離れていく


毎日、決められた仕事をきちんと行う。

それ自体は何も悪いことではありません。

むしろ物流にとって、非常に重要なことです。

しかし、それだけで長い時間が経過すると、「自分の仕事」と「会社の仕事」が少しずつ別のものになっていくことがあります。

会社が今、どこへ向かおうとしているのか。

なぜ、この改善が必要なのか。

なぜ、今までのやり方を変えなければならないのか。

会社は顧客に何を提供しようとしているのか。

経営が何を大切にしているのか。

そうしたことが、自分の日々の仕事とは関係のない話になっていく。

経営側も、

「現場はきちんと仕事をしてくれればいい」

と考えるようになる。

こうして、少しずつ経営と現場との距離が広がっていきます。

そして、その距離が大きくなるほど、会社が何かを変えようとした時に現場が動かなくなります。


■ 全員のモチベーションを高くする必要はない


では、どうすれば経営と現場の距離を縮められるのでしょうか。

ここで「社員のモチベーションを高めよう」という話になりがちですが、私は少し違う考えを持っています。

全員が仕事に対して高いモチベーションを持つ必要はないと思っています。

仕事に強いやりがいを感じる人もいる。

生活のために働く人もいる。

会社で成長したい人もいれば、決められた時間に決められた仕事をきちんとやりたい人もいる。それでいいと思いますし、それは物流企業に限った事ではありません。

人の価値観はそれぞれ違うからです。

大切なのは、全員のモチベーションを同じ高さにすることではありません。

必要な時に、全員が同じ方向を向けることです。


■ 毎日でなくていい。「ココゾ」という時に一つになれるか


私は、会社の組織をサッカーチームに例えて考えることがあります。

サッカーチームにも、さまざまな選手がいます。

点を取ることが得意な選手。

守備を得意とする選手。

目立つ選手。

目立たなくても、与えられた役割を確実にこなす選手。

考え方も性格も違います。

それでも試合になれば、一つのゴールに向かって動かなければ勝つことはできません。

物流現場も同じではないでしょうか。

毎日、全員が高いモチベーションで働く必要はありません。

しかし、

大きなトラブルが発生した時。

想定以上の物量が入ってきた時。

新しい顧客の業務を立ち上げる時。

繁忙期を乗り切らなければならない時。

「ココゾ」という時に、チームが一丸となれるか。

そこが重要だと思っています。

普段はそれぞれ違う考え方を持っていても、

「今日はみんなで何とかしよう」

と自然に思える。

そんな経験を積み重ねることで、

「あいつは自分とは考え方が違うけれど、やる時はやる」

「困った時には助けてくれる」

という相互の理解が生まれていきます。

そして、それが信頼関係に変わっていきます。


■ 現場責任者は「チームキャプテン」


その環境を作るうえで、非常に重要なのが現場の責任者、マネジャークラスの存在です。

サッカーで言えば、私はチームキャプテンに近い存在だと思っています。

経営が考えていることを、そのまま現場へ伝えるだけではありません。

現場の人たちが何を感じているのかを理解する。

それぞれの人の得意なこと、苦手なことを知る。

仕事に対する熱量の違いも受け入れる。

そのうえで、必要な時にはチームを一つの方向へ向かせる。

経営と現場の間に立ち、その二つをつなぐ。

それが物流現場のマネジャーに求められる大切な役割の一つだと私は考えています。

現場責任者が単なる「作業の管理者」になってしまうと、この役割を果たす人がいなくなります。「作業の管理者」として現場に寄り添い過ぎてしまうと、意見や考えが現場寄りになります。管理者が会社の意向等への関心度が低かった現場側に寄り添った思考や感情が強くなれば、当然、経営と現場との距離はさらに広がっていきます。

■ 現場の「空気」は作ることができる


物流現場には、さまざまな設備があります。

自動倉庫、コンベヤ、AGV、AMR、ハンディターミナル、WMS。

設備やシステムを変えれば、仕事のやり方は変えることができます。

しかし、それだけで現場の「空気」が変わるわけではありません。

経営と現場の間に立つ人がいる。

現場で働く人たちがお互いの役割を認めている。

普段のモチベーションには違いがあっても、必要な時には同じ方向を向くことができる。

そんな状態が作られている現場には、独特の一体感があります。

だから私は物流会社の現場を訪問した時、設備を見る前に、その現場の「空気」を見ます。

経営と現場との間に、どのくらいの距離があるのか。

会社が大切にしていることが、現場まで届いているのか。

そして、「ココゾ」という時に、この人たちは一つのチームになれるのか。

数字には表れにくいものです。

設備仕様書にも、会社案内にも書かれていません。

しかし、物流企業にとって現場が商品そのものであるならば、そこで働く人たちが作り出している「空気」は、その会社の力を映しているものだと私は思っています。

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