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完璧な日々(パーフェクト・デイズ)

映画の主人公同様、私も木々を見上げる構図の写真を良く撮ります。
映画の主人公同様、私も木々を見上げる構図の写真を良く撮ります。

ヴィム・ヴェンダースというドイツの映画監督が撮った「パーフェクト・デイズ」という映画があります。数年前に公開され、高い評価を得た作品です。

ヴィム・ヴェンダース監督は私の大好きな監督の一人で、「パリ・テキサス」や「ベルリン」といった代表作は何度観たかわからないです。

彼は小津安二郎監督をとても崇拝していて、いつか日本を舞台にした映画を作るだろうと言われてましたが、この作品でついに実現した‥という形です。

Prime videoで久しぶりにこの作品を観て、改めて感動してしまい、今キーボートを叩いてる次第です。


舞台は東京、主人公(役所広司)は東京スカイツリーから程近い下町の古くてボロいアパートで一人暮らしをしています。

公園のトイレ掃除で生計を立てる言葉数が異常に少ない初老の男で、毎日、近所のおばあさんが道を竹箒で掃く音で眼ざめ、朝のルーティンを行い、鍵をかけずに部屋を出て、一度空を眺めて微笑み、アパートの敷地内にある古い自販機で缶コーヒーを買い、軽ワゴンに乗り込み、お好みのカセットテープ(現代の話です)をかけ、職場である公園のトイレへと向かいます。


完璧主義できっちりした性格。それでいて通勤に高速道路を使うという贅沢をしていたり、カセットテープへの執着があったり、腕時計を持っているのに仕事の時はつけない・・等々、様々な部分に「自分の世界」を持った人物であることを感じさせる描写があります。


仕事が終われば、仕事服から私服に着替え、近くの銭湯で一番風呂を浴び、浅草駅の地下街にある一寸酒場で決まった晩酌メニューを嗜んで帰宅します。そして、決まった古本屋で買い求めた文庫本を読み、眠くなったら眠りにつきます。

週末にはコインランドリーで洗濯をし、趣味である木漏れ日や、木を見上げた構図のモノクロ写真をカメラ屋さんに現像してもらい、お気に入りのママが一人で営むスナックでひと時を楽しみ、また新たな一週間を迎えます。それを一寸違わず、繰り返す日々。


是非見て欲しいので、細かな内容は省きますが、そんな日々の中で、彼の日常を狂わす様な出来事が起こります。喜怒哀楽の感情が込み上げ、主人公の心を揺さぶる様な事がいくつか起こります。

主人公は人知れず、笑ったり、怒ったり、涙をこぼしたりします。そして、余韻を残すラストシーンはとても素晴らしいです。


この映画を久しぶりに観て、「自分」「自分と他人」というものに思いを巡らせました。

一人で暮らし、口数も少なく、自らは決して他人と親密な関係を築こうとしない、または上手く築く事が出来ない主人公の日常。

彼の生きている世界の事は彼にしか解らず、何かを分かち合える存在はいません。


それでも人と人は交ざり合って、互いが互いの事を認識し、意識しながら「自分だけが見てる世界」の中で生きていきます。

その中で色んな事がおき、その「自分だけが見ている世界」が変化していきます。

孤独な主人公の日々にもそれは起き、彼の心を揺さぶります。


人が自分を理解する事はない・・・。

だからと言って人を拒絶したり、一人で生きて行こうとしても、結局、喜びや悲しみを与えてくれて、人生を豊かにしてくれるのは「他の人」の存在です。


私自身、山に籠って世間から離れ、一人で自給自足の生活…というものへの憧れは、昔っから抱いてますが、恐らく本当にそういう事を実現したら、過去の思い出に縋って暮らす事になるでしょう。家族や友人、巡り合ってきた人との思い出にふけりながら死ぬ日を待つ様な事になるんだろうと思います。


今現在の私は個人で仕事をしてますから、世の多くの人よりは、人間関係に悩み苦しむ事は少ないのかもしれません。しかし、それでも悩み苦しみます。

また、家庭がありますから夫婦や親子の関係というのはいつも悩みの種ではあります。


この映画の主人公は「孤独」であるが故に、他の人との繋がりが生む機微に大きく心を動かされ、日々が潤っていきます。

本来誰もが人との繋がりの中で、彼の様な潤いを得られる機会があるんだと感じます。

その位、他の人とのつながりというものは大きな事なんだと思います。


しかし、人との繋がりが苦痛になったり、其れで心を病んだりするのが、私達が生きる今の社会で起こっている現象です。多くの人がこれに悩み、苦しんでいます。

私達の人との繋がり方は、何かが間違ってしまってる気がします。

私自身、本来あるべき姿で、他の人との繋がりを築けてる訳ではありません。しかし、私に潤いを与えてくれるのは自分ではない存在である事は確かだと感じてる次第です。


人との繋がりの中で喜怒哀楽しながら「自分だけが見てる世界」で生きていく・・それが完璧な日々・・。そんな事をヴィム・ヴェンダース監督は言いたかったのかもしれません。

幸せな日々とか、平凡な日々とかではなく、完璧な日々(パーフェクト・デイズ)・・というタイトルなのも何とも素晴らしいです。


この映画を観て、私の様な感想を抱かない方も沢山居ると思いますが、素晴らしい作品である事は間違いないです。観てない方は、暇な時にでも是非、ゆっくりと。






 
 
 

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