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出版物流の世界と私 2



トランスビュー社さんは、関西の老舗仏教書出版社の東京支社に在籍していた編集者さんと営業担当の工藤さんが立上げた新鋭出版社さんでした。

私が出会う2〜3年前に開業しており、宅配業者さんの倉庫に在庫を預けていたのですが、その業者さんの倉庫が営業倉庫許可を持っていない事が判明し、倉庫業から撤退する事になった為、移管先を探しているところでした。


私が衝撃を受けた・・というのは、「書店直取引でやっている」という事でした。

それまで、書店直取引は児童書の永岡書店さん位しか存在を知らなかったし、新鋭の小さな出版社さんが、単独で実現出来る様なものではない・・と思っていました。

しかし、彼はそれを既に実行していました。

自分の力で販路も物流手段も販売管理方法も構築し、自社の出版物を流通させ、事業を成り立たせていました。


書店の「責任販売制」の先駆け的な取引条件と定価が高めな刊行物。

それにより、実現する宅配便主体の書店直納品・・という事だとは思いました。


・・・とはいえ、それを小さな出版社1社で実現している事には驚きを隠せませんでした。

先ず、書店が相手にしないだろう・・と普通は考えます。

でも、彼の醸し出す雰囲気や人柄が、それを可能にしてる・・というのも、会えば納得出来る事ではあります。とにかく断られようが、馬鹿にされようが1店舗、1店舗書店を回り、事業が成り立つだけの口座を開いていった事が容易に想像出来ます。


彼は今でも「やりたくてやった訳ではなく、取次さんが相手をしてくれなかったから」

・・・と、その流通スタイル構築の理由を話します。


生きる為に、他の選択余地がなく選んだ「自分達でやるしかない」という覚悟。

その覚悟が生んだ、出版流通の革命です。


まだ、アマゾンの脅威も今ほどでなく、書店の店舗数も現在の倍近く存在していました。

その中で、ターゲットを絞り、直取引にOKしてくれる2〜300店舗の書店と口座を開き、基本、注文条件で出荷。注文なので現金収人が早い。かつ、取次店経由とは異なり、どの店でどの商品が月に何冊売れたのかが明確に把握出来る。

それにより、精度の高いマーケティングが可能となり、書店に対しても信頼度の高い販売促進営業が実現できている。


また、図書館流通だけは最初に確りと抑えていたのもポイントでした。当時、TRCの窓口である大洋社(今は無き・・)とは取引をしていたのです。

纏まった新刊の注文が見込める図書館の販売を確保する事は、定価が高めで流通量が少ない人文書の出版社にとっては、とても重要となります。


工藤さんの実行力と、当時聞いた「必要な事をただ、サボらずにやっただけ」という言葉は、私にドーンと、響きました。

簡単そうでソレが出来ないのが人間。私も然りで、中々それが出来ない。


トランスビュー社さんとの取引が開始されてまもなく、著者さんの早過ぎる他界をキッカケに、既刊本が爆発的に売れる・・という現象が起きました。

池田昌子さんの「14歳からの哲学」という本です。

今では学校推薦図書になってる名著であり、「〇〇歳からの〜」系の元祖です。

それにより、「書店直取引」は大きく注目され、以降、雨後のタケノコの様に、直取引形態を取る新鋭版元が誕生。いつしか「トラビュー方式」と言われる様になりました。


今では、トランスビュー社さんが新規版元さんの流通代行を行なっており、その取引出版社数は300社にのぼります。因みに返品率は10%もありません。書店にとってもどれだけ効率の良い仕入れが出来ているかが判ります。


一方、その頃の私は営業から離れ、「事務責任者」という任務を与えられていました。会社が新設した大型センターの事務業務の責任者です。

新設した多層階の大型倉庫は、現場が落ち着かず、事務も混乱していました。

主婦層の多い事務員の負担と、時間外労働が大きな問題になっており、それを改善する事が私のミッションでした。取り敢えず・・という形で、事務員の時差出勤を導入しました。


特にAMの早い時間は、出版社さんからの問合せも少なく、データ取込み等のルーティン業務が主流。朝はパートさんを主体にし、社員の事務員は、業務の都合に応じ、1時間〜3時間の時差出勤を自分の裁量で活用してもらう様にしました。

裏技的ではありますが、時間外労働はあっという間に減少。事務社員も朝の余裕は嬉しいらしく、殺伐とした雰囲気も解消されました。


応急処置的な施策を講じた後、事務業務負荷削減に不可欠なお客様である出版社さんとの間の運用ルール整備に着手する事にしました。

特に古くからの付合いがあるお客様との運用ルールは、曖昧になっており、事務員も現場担当者も何処までが、決まり事が解ってない状態。

先ずは会社の基本的なルールとかけ離れてる部分について、お客様に変更可能かの相談をする事から始めました。


すると・・実は、「連携強化」を求めてる出版社さんが複数存在している事がわかり、「ルールは合わすからデーター連携やシステム提案を・・」と言う話へと進んで行きました。

複数の出版社様から、様々な要望や提案が寄せられきました。

開発会社に頼むより、安くて、話が通じやすく、融通が利く・・・当然、ニーズが高まります。顧客である出版社さんの要望で、書店に在庫を開示し、店舗からダイレクトに注文が出来るサービス・・等も先駆的に開発しました。


また、受注センター業務のみならず、営業代行まで手掛ける同業他社も出てきて、出版倉庫各社が提供するサービスバリエーションも豊富になってきました。

倉庫会社別の特性も表出し、競争も激しさを増していました。

出版倉庫が、名実共に出版社さんのビジネスパートナーとしての役割を期待される存在となってきた時代です。


                                     3に続く














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