「トライオート」
- zassoukh04
- 2022年9月9日
- 読了時間: 5分
更新日:2022年9月22日
出版の流通を支える再販委託制度。
再販委託制度によって存在する在庫運用の肝、それが「改装」という作業。
出版社さんで販売や営業に携わられていれば「改装」という言葉は知ってる人も多いと思います。市場から返品されてきた「本」を再生する作業です。
本体のページ側面に磨きをかけたり、表紙の汚れを落とし、カバーや帯・スリップを新しいものと交換し、新品同等の状態にします。
簡単に言うと、その作業を自動で行なってくれるのが「トライオート」です。
ソフトカバー限定であることや、判型・厚さ等の制限がありますが、この機械が低料金で改装作業を行える「要」となってます。
しかし、機械なのでそれ相応の「ロット」が必要です。「ロット」が少ないと機械の設定、製品の切り替え等の時間・手間を考えた時、「人手による作業の方が良い」となります。
この改装作業の「ロット」減少は10年以上前から進み続けてます。
昨今に於いては「トライオート」で改装作業が可能なレベルの改装依頼は益々減少し、手作業の割合が増加してます。それどころか1冊単位の改装依頼なんてのもザラという状況です。自ずと「トライオート」という機械自体の需要が低下してます。
あるトライオート製造のメーカーさんが事業を止めました。
指折りで数えられる、少ないメーカーさんの内の代表的な一社です。今ある機械のメンテは継続する様ですが、こういう所にも時代の変化を感じます。
オンデマンドが改装に変わる・・・そんな日が訪れるかも知れませんが、現状、質・コスト共に比べ物にならない程、改装が優れています。
最近は大手出版社が物流子会社・グループ会社を活用し、良好な関係にある出版社さんを勧誘して倉庫事業に力を入れる・・という動きが注目されてます。
しかし、場内作業を委託されてるのは「出版専門の倉庫会社」という場合が殆どです。子会社の社員さんは良い待遇を受け、現場で汗かく事も少ないですが、その待遇を捻出してるのが、倉庫屋さんのスタッフや、その下請け・孫請けの協力会社です。
孫請けレベルは当たり前ですし、ひ孫もよくある話です。
この下請け以下のレベルで行われる作業のメインが「改装」です。
ここでは「トライオート」が活躍してます。
しかし、数10年前から変わらない安い料金・無理の多いスケジュール・アナログな指示。「それでもトライオートで出來るロットが有ればやりたい」・・・という業者さんが無理してでも仕事を請けてます。
しかし、全体のパイが減少し続ける中で、この流れがいつ迄も維持できるとは到底思えません。多くの孫請け以下の仕事が無くなるのは時間の問題でしょう。
こんな話が有ります。
ある出版倉庫さんが「現存のトライオートに足りない機能を付け加える事が可能か」をメーカーさんに相談しました。すると「可能ですよ」と言われました。それが有れば可成りの工数を軽減出来る機能です。しかし、出版倉庫さんはそれに掛かる費用を聞いて、断念しました。その機能を付けて、投資額を回収するには、今よりも年間800万冊分多く改装をしないとならない計算になるからです。
これが非現実的な冊数なのは、出版に携わる方々なら理解出来ると思います。
トライオートを例に出してますが、出版物流に於いて最新技術の投入は部分的には進むと思います。しかし、システム開発会社やマテハンメーカーが自発的に「出版物流・流通専用」の製品を新たに開発するとも考えずらい。仮に開発しても市場は小さいので、高価なものとなります。詰まるところ、大手の出版社や取次にとって有意義なものが進められる事になると予想されます。
しかしそれが、中小の出版社や倉庫業社にとって歓迎すべきものとなるかは疑問です。
当たり前ですが、会社の規模・ジャンル・営業戦略・流通経路・・等で、最適な「商品の運用」は異なります。大手が主導する中で自社の戦略を実行する事が可能でしょうか。
自社独自の販売ルートや戦略を理解し、実行してくれるでしょうか。または、それを利用されてしまう事は無いでしょうか。
最早、「長い物には巻かれろ」という時代では有りません。
現在既に、流通の変化によるロットの減少は、再販委託制度を支える「改装」及び、それを担う「出版倉庫・物流代行会社」に大きな負担を与えてます。
物流事業者さんがそこで戦い続け、無謀な価格競争を生き残る・・という耐久戦を続ける限りは、首を絞めてくだけでしょう。人件費の上昇・手作業の増加・変える事が難しい料金。
既に多くの出版倉庫さんが他の市場への参入を進め、企業としての生き残りに力を入れている事実が有ります。価格競争で疲弊する事より、新たなノウハウや技術に投資するのは当然の選択です。
時間は進んでます。
私は中小の出版社さんとそれを支える物流倉庫さんの良好な関係構築の架け橋になりたいと思ってます。双方が自社の強みを活かせる強固な関係は今後、「紙の本」を読者に届けるうえで重要になると考えてます。
あらゆる手法で「自社の本」を読者に届け、在庫を有効的に運用するのに、出版社さん自身が「在庫管理」に対して、真剣に向きあう必要があると考えてます。
出版物流業者も、競合他社と異なる目線で自社のお客さんと対峙し、互いを高める存在である必要があります。
出版社さんが「大手同業他社の物流子会社」に在庫を任せる・・・という選択で護送船団を続けるという判断もあるでしょう。そこにはまだ「ロット」が有ります。
「トライオート」も生きてます。
しかし、自社の商品、販売戦略がそこに合うかを真剣に考え、選択すべきでしょう。
「在庫管理・運営」の主導権を失う覚悟が必要となるからです。
また、中小出版社が自社管理を続ける・・という選択はとても勇気のある決断だと思ってますし、更に真剣に考える必要があるでしょう。しかし、其処には古き慣習から脱却し、新たな「強み」を生み出す大きな可能性が存在してると思います。
在庫管理は、頻繁に協力業者や方針を変更できるものでは有りません。
自ずと「どんな運営管理をしてるか」が、販売や営業戦略に大きな影響を与えます。
他業種の物流も知る人間としては、これだけ「在庫管理や物流業社を甘く見てる」業界も珍しい・・と感じてます。それだけ流通や物流側のサービスが充実していたとも言えます。
それを支えているのが再販委託制度であり、それを象徴するのが改装作業です。
「トライオート」はその象徴です。
「トライオート」の時代に生きるか、先を見据え自社独自の路線を進むのか。
既に時代は動いてます。少しでも早く真剣な取り組みが必要だと強く感じます。








コメント